「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第96話

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帝国との会見編
<シークレットゲスト?>



 私たちは儀典官の一人に案内されて控えの間へと案内された。
 カロッサさんの話によると控えの間は中央階段の左右に4部屋あって、一部屋が空くとその部屋に次の貴族が呼ばれるというシステムらしい。
 これは下級貴族ならともかく上級貴族の場合は相部屋をさせるなんていうのは失礼に当たるし、もし皇帝陛下が参加なさる場合は予め何かを仕掛けられたりできないようにするなどの警備の関係上、同じ部屋に入れるわけにはいかないから控えの間を一部屋占有してしまう事になる。
 この時もし控えの間が二部屋しかなかった場合、下の貴族が功績を挙げた時などは入場の順番は逆になった上の貴族と一部屋に入る事になって気まずい思いをする事になるから4部屋用意してあるんだって。

 「此方でございます」

 「ありがとう」

 儀典官にお礼を言った後ヨウコが開けてくれた扉をくぐって控えの間に入る。

 「それでは私たちは会場へ移動します」

 「はい、行ってらっしゃい」

 一緒に入場する訳ではない、ヨウコとサチコを先に会場へと送り出して控えの間に用意された席に落ち着くと、会場側の扉の向こうからざわざわとした声が聞こえてきた。
 なんと言うかなぁ、大声を出しているというより大人数で声を上げているために大きな音になっているって言う感じだ。
 貴族のパーティーだし、開催前はもっと粛々とした感じで入場するんじゃないかと思っていただけにこれはちょっと意外。

 「意外とざわざわしているのですね」

 「はい。なにぶんこの辺りの貴族全てに招待状が送られた大きなパーティーですから、それなりの人数がすでに会場入りしていますし、アルフィン様が控えの間に呼ばれている時点で入場する貴族はすべてこの辺りでは上位に入る者たちですから、その貴族の派閥に属する者たちがあげる感嘆の声だけでも結構なものになるでしょうから」

 カロッサさんが言うにはそういう理由らしい。
 なるほど、この世界でも上位の人にゴマをするという文化はあるということなんだね。
 上位の貴族からしても入場時に誰も反応してくれないよりは感嘆の声でも、嫉妬の視線でも、何かしら反応があったほうが嬉しいだろうからこの様な感じになるのは当然なのかもしれない。

 その後も扉の外からだれそれ様、ご来場になります と言う声が聞こえ、私はそのたびに少しずつ緊張が高まっていく。
 何せ貴族のパーティーに参加することなんて初めてなんですもの。
 周りからおかしな行動やしぐさをしているなんて思われたらどうしよう? なんて心配になるのは当然よね。

 でも、そんな私の様子を見て気遣ったのか、シャイナが席を立って私に近づき話しかけてきた。

 「アルフィン、まず私とライスターさんが先に入場するから、アルフィンは少し遅れて入ってきてね。そうじゃないと身長差から私が階段の下にいてもアルフィンが隠れてしまって、私がとんでもなく大きな女性だって印象付けられてしまうから。ちゃんとお願いしたわよ」

 「あら、それは私の背が小さいと言っているのかしら? 失礼ねぇ」

 ふふふっ。
 あははっ。

 私たちはそう言いあった後、笑いあう。
 ありがとうシャイナ、おかげで少し落ち着いたわ。

 「アルフィン姫様、シャイナ様、今イーノックカウを治める貴族が呼ばれました。いよいよ次がアルフィン様の番です。扉の前でご準備をお願いします」

 「ありがとうリュハネンさん。それじゃあシャイナ、露払いをよろしくね」

 「はい、女王陛下。イングウェンザー城近衛騎士団長としての勤め、立派に果してまいります」

 ありもしない役職名を言って恭しく礼をした後、男前な笑顔でシャイナはにやりと笑ってから改めて私に対してカーテシー。

 「それではライスターさん、エスコートをよろしくお願いします。今度は足をもつれさせないで下さいね」

 「はい! あのような失態は二度と繰り返しません」

 そして何時の間にやら近くに来ていたライスターさんに右手を差し出してエスコートを頼み、扉の前へ静々と歩を進めた。

 「それではカロッサさん、私たちも」

 「はい、アルフィン様。お手をどうぞ」

 そういうカロッサさんの手を取って私も席を立つ。

 私たちが扉の前にいくと、私の後ろにギャリソン、そしてカロッサさんの後ろにリュハネンさんがついた。

 本来はこの国の貴族であるカロッサさんの後ろに騎士が付く事は無いそうなんだけど、今回は来賓である私の後ろに護衛を兼任する執事が付くので、見栄えの関係から特別に入場する事になったらしい。
 普通は護衛の騎士といえど入場時は同行せず会場で待機するのが普通らしいけど、帝国側の貴族には誰も付いていないと言うのはやはり対面上よくないと言うことなんだろうね。

 「皆様、都市国家イングウェンザー女王アルフィン陛下と都市国家イングウェンザー使者、上級貴族シャイナ様、そしてそのお連れの方々のご来場になります」

 その声と同時に目の前の扉が開く。
 いよいよ入場と言う訳だ。

 因みに本来ならシャイナの爵位がここで読み上げられるらしいんだけど6家しか貴族がいないイングウェンザーにはそのような物はないと伝えた所、急遽この様な呼び方にすると決めたそうな。
 普通は都市国家であっても貴族全てが同格なんて事はありえないだろうから驚いただろうね。

 さて、扉が開いた以上、入場しないわけには行かない。
 と言う訳で、まずはシャイナがライスターさんにエスコートされて中央階段上の踊り場へ。
 するとざわざわしていた会場が水を打ったように静かになった。 

 えっ? なに? シャイナ、何もやってないよね? 
 何が起こったのか解らず動揺したけど、シャイナが何事も無かったかのように会場に向かってカーテシーをして階段へと歩を進めたので、私もカロッサさんと共に中央階段上の踊り場へと歩を進める。

 そしてその場でカーテシーをして会場を見渡した瞬間、なぜ会場がこれほどまでに静かになったのかを私は理解する事となった。
 そこにいる貴族たちの表情を見ることによって。


 ■


 会場にいた貴族たちはその瞬間、時間が止まったのかのごとく全ての者が身動きできなかった。

 都市国家イングウェンザーとか言う、初めて聞く小国。
 その国の使者とやらがどのような者なのかと皆、周りのものと話しながら興味津々で中央階段を見つめていた。
 ところがそこに現れたのはまさに圧倒的、この世の全ての美をその身に携えたかのような褐色の美女だった。
 歩くたびに揺れる真っ赤なドレスの裾とその扇情的なデザイン、そしてその女性のスタイルのよさが見るもの全ての視線を釘付けにする。

 ここにいる貴族たちはこの世の素晴らしい芸術品や美しい女性たちを目にしてきたゆえに選美眼が磨かれた者ばかりだった。
 それにもかかわらずこれ程美しい女性を見たことが無く、またそれゆえにその暴力的なまでの美しさに声も出なかったのである。

 例えるのなら天に輝く太陽の美しさ。
 男たちは憧れの中にも目にした瞬間手のとどかない存在であると実感し、女たちは嫉妬どころか敗北感すら感じないほど自分たちとの違いを思い知らされていた。

 そんな美しい女性がカーテシーをして階段へ徒歩を進めた事により、その場にいる貴族たちは自分たちが他国の来賓を迎えている事を思い出し、そして次に続くであろう都市国家イングウェンザーの女王に同情した。

 この様な美しい貴族の後に来場しなければいけない女王を不憫に思って。

 ところがである。
 次の瞬間、階段上にいる以外のその場にいる者全てが、頭をハンマーで殴られたかのような衝撃を受ける事となる。

 歩くと小さく揺れて、その度に銀の粒子でも撒き散らしているかのように光り輝くプラチナブロンドの髪、そして儚げであるながらも幼さの残るその顔はまさに可憐にして華麗。
 それは先程の暴力的な美とは真逆の、全ての者を癒す優しさをその身に宿す極上の美しさを持つ少女だった。

 先程現れた褐色の女性がまばゆい太陽だとするのなら、この女性は銀の光を纏った神秘的な輝きを放つ月であろう。
 激しさで言うのならば確かに太陽のほうが上かもしれないが、しかしそれは近づけばその身を焼かれ自らを滅ぼす美しさだ。
 しかし神秘的な光を携える月は逆に全てを包み込、全ての者に癒しを与える美しさだった。

 そんな少女が階段の踊り場でカーテシーをすると、それにあわせて階段中央で先程の美女ももう一度カーテシーを行った。
 その瞬間全ての者の時間は再び動き出し、会場のそこかしこから感嘆の声が上がるのだった。


 ■


 水を打ったような会場が私のカーテシーを見て、一転感嘆の声に包まれている。

 そうか、みんなシャイナに見惚れたんだ

 そう言えばカロッサさんたちも初めて私たちを見た時にこうなったっけ。
 話によると、ライスターさんもシャイナを見たとき女神と間違えるほど美しいと感じたらしいし、サチコの話からすると彼女が初めてカロッサさんの館を訪れて冑を取ったときも、リュハネンさんたちが変な態度をとってたって言うものね。

 どうもこの世界の貴族たちやそれに順ずる人たちからすると、私やシャイナの姿は物凄く美しく見えるらしい。
 これは多分私たちの容姿がCGによって作られたものだからなんだろうなぁと思うんだよね。
 普通生き物と言うのは微妙に左右の顔が違っているんだけど、私たちの顔は作り物だから完全に左右が同じ造りになっている。

 前に聞いた話によると、目、鼻、口の位置が黄金比率の人の場合、左右の顔がよりシンメトリーに近いほど人はより美しいと感じるんだとか。
 これは多分、だからこそのこの反応なんだろう。

 閑話休題。

 私はゆっくりと階段を下りてゆき、そして階段下で待つシャイナと合流するとそこに二人のメイド、ヨウコとサチコが静々と近づいてきて私たちの後ろに並ぶ。
 すると、

 「おい、都市国家イングウェンザーって言うのは信じられない程の美女しないない国なのか?」

 「わたくしもあの国で生まれていれば、あのような美貌が手に入ったのでしょうか?」

 そんな小さな声が、そこかしこから聞こえてきた。
 どうやらヨウコたちを見た貴族たちが、彼女たちも私たちと同様に美しかったから驚いたみたいね。
 まぁ、この二人は私より綺麗だから解らないでもないけど、ここにユミちゃんを連れてきていたら、もうちょっと違った感想が聞けたんじゃないかなぁ?
 でも今いるメンバーだけならそんな感想を持っても仕方がないことなんだろうね。

 そんな声を背に、私はロクシーさんのところまで行ってカーテシー、そしてそれにあわせてシャイナたちも挨拶をする。
 と、ここで音楽が鳴ってパーティーが始まるはずだったんだけど、なぜか楽団が音楽を演奏する気配がない。
 はてどうした事かと、ロクシーさんのほうに目を向けると、彼女が座る椅子の後ろになにやら豪華な椅子が見えた。

 「これはこれはアルフィン様、どうぞ此方へ。わたくしの横にあるこの場所が今宵アルフィン様がお座りになられる席になります」

 「えっ? あっ、はい、ありがとうございます、ロクシー様」

 後ろにある椅子に気を取られていた為にちょっと間抜けな声を上げてしまったけど、私はロクシーさんに促されてその豪華な椅子とは反対側の椅子へと誘われた。

 因みに座る順番はロクシーさんの隣から私、シャイナ、カロッサさんの順番で、私の後ろにギャリソンたちが立ち、カロッサさんの後ろにリュハネンさんとライスターさんが立っている。
 本来ならばここは来賓席なのでカロッサさんはこんな位置に座れる立場ではないのだろうけど、今日は私のエスコート役と言う事で特別にこの様な位置に椅子が用意されているのだとリハーサルの時に儀典官の人が教えてくれた。

 ふと見渡すと結構上の位らしき貴族たちも含めて参加者たちは全て立っているので、子爵と言う地位であるカロッサさんはさぞ居心地が悪い事でしょうね。
 その証拠に、リハーサルのときは私の後ろに立つと言っていたもの。
 ただ、儀典官からダンスの際に進行に支障をきたすから座ってほしいと言われてしぶしぶ了承していたけどね。

 因みにシャイナのエスコート役であるライスターさんは貴族ですらないので流石に椅子は用意されなかった。
 本来なら他国の使者はエスコートされる女性も含め椅子に座るのだろうけど、流石に貴族が立っている場でその国の騎士が座ると言うのは許されないことらしい。
 儀典官としては本音を言えばやはり進行の関係上座って欲しいらしいんだけど、こればかりはどうにもならないそうな。

 さて、私も席についたことで、いよいよパーティーが始まると思ったんだけど、なぜかここでロクシーさんが立ち上がり来場の貴族たちにスピーチを始めようとした。
 なので私たちも礼儀上席を立って、ロクシーさんの言葉を聞く事にする。

 そうか、リハーサルには無かったけど何か貴族たちに伝えなければいけない事ができて急遽ロクシーさんがスピーチをする事になったから私が挨拶してもパーティーがは始まらなかったのね、なんて思いながら私はロクシーさんのほうに体を向けて聞く体勢をとった。

 「ご来場の貴族の皆さん、本日はわたくしの呼びかけにお集まりいただき、ありがたく思います。そんな皆様に今日のシークレットゲストを紹介したいと思います。ふふふっ、アルフィン女王陛下も喜んでいただけると嬉しいのですけれど」

 へっ? シークレットゲスト?

 いきなりのロクシーさんの言葉に少し動揺する。
 何せ私はこの世界の事をほとんど何も知らないのだ。
 そんな私が喜ぶ人っていったい?

 頭にはてなマークを浮かべながら当惑顔でロクシーさんの顔を窺ったんだけど、当のロクシーさんはただ微笑むばかり。
 そしてトランペットの音が会場に響きわたり、いきなりの事にざわついていた会場が静かになった。

 そしてロクシーさんが頭を下げる。

 「まさか!?」

 その姿を見て、カロッサさんが、そして会場の貴族たちがざわめき出したんだけど、次の瞬間会場は凍りついたかのように静まり返る事となった。

 会場内に響き渡る儀典官の声。

 「皆様、バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下のご来場です」

 こっ皇帝陛下? えっ、嘘でしょ? もうすぐ戦争なんだよね? なのにこんな所に皇帝陛下が来るはずないわよね?
 半分パニックになりながらも目を中央階段に目を向けるとゆっくりと一人の容姿端麗な金髪の男性が入ってきた。
 と同時に一斉に傅く貴族たち。

 どうやらまた私はロクシーさんにいっぱい食わされたようだ。

 でもどうしよう、皇帝と接見する心の準備なんてできてないよ。

 皇帝の靴音が響く中、あまりの事に少しパニックになり、礼をする事さえ忘れてただ立ち尽くすアルフィンだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 いつもより少し短いですが、最後の描写で終わりたいのでここで切らせてもらいました。
 まぁ、それでも5000文字以上あるんですけどね。

 さて、アルフィンたちの容姿は実を言うとユグドラシルでもかなり作り込んでいる方です。
 と言うのも主人公がオタクでキャラクターデザインに凝るタイプだったからです。
 普通に作ってもかなりいい感じに出来るのだろうけど、アルベドのように作者が凝ればより一層美しくできるのだから、それに力を入れる人は案外多かったんじゃないかなぁ。

 ただ、凝れば凝るほど周りに自分はこういうのがタイプなんですよって宣伝して歩いているみたいなものなんですけどね。


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